長野県にあるHOYA松島工場へ行ってきました

2014年11月、当店も所属する神奈川県眼鏡協会青年部の研修旅行で長野県にあるHOYA松島工場へ行ってきました。

実はこの松島工場はセイコーエプソンのメガネレンズ部門の中核工場でしたが、メガネレンズ部門がHOYAに譲渡されたことに伴い、従業員290名、年間生産量145万枚のHOYAビジョンケアカンパニーの中核工場として生まれ変わったのです。


中央道伊北インターチェンジを降りてほどなくイオンの隣に工場が見えてきました。国内最大の生産拠点として巨大な建造物を想像していましたが実際の工場は2階建てで第一印象は「意外にコンパクト・・。」敷地も広大と言うほどではありません。

レンズはそもそも商品のサイズが小さい上、ここがRXレンズ(特注レンズ)生産工場で大量生産の在庫レンズの生産はここでは無くタイにある工場で作っているからでしょう。

さて、HOYAの営業のお出迎えを受け早速中へ、まずは会議室でHOYAの全世界のレンズ生産体制の説明や松島工場の概要、これから見学・体験するレンズ生産の流れの説明を受けたあと、見学の前にレンズカラーの繊細さを体験するために色差識別カラーテストというのを受けることになりました。

下の写真のような少しずつ色相が異なる小さな駒のようなものを一定の時間内にきれいなグラデーションになるようの並べ替えていくというものです。

ちなみにこのテストはここ「色差識別カラーテスト」でオンライン上で体験できます。実際にやってみると意外と難しい。

もちろん大きな色の違いはわかりますが隣り合った2つの色相は本当に微妙な違いしかないので1,2箇所間違えました。

ちなみにレンズの染色は一段階の色差の違いがあるだけで不良品扱いになるそうです。厳しい・・。

00 hue test色相検査検査機器一式で69,000円也

HOYAメガネレンズ製作工程見学

(ここから先は企業秘密で撮影禁止でした活字のみです。また記述には私個人の記憶違い、理解不足のある可能性がありますがご容赦ください。)

1)材料出し
「材料出し」とは全国の眼鏡店からオンラインで発注されたオーダーにもとづいてレンズの元となるセミ材やペレットを取り出す工程です。


私達は実際に材料出しを行っている部屋を見学しました。普段見れないセミ材(遠近両用レンズの半製品)などを見せていただきましたが、ここで驚いたのは一定時間ごとにまとめられた全国からのオーダーは全てプリンタで紙にプリントされ、オーダーごとの指示書に指定されたセミ材を「人力」でピックするということ。

ロボットのような機械のアームで自動的にピックしていくのを想像していましたが意外にアナログでした。レンズオーダーの集中する4時頃は大忙しだとのこと。

2)研磨工程
ピックされたセミ材やペレットを研磨して、処方に応じた度数にする工程です。


まず研磨する前にレンズを研磨機に固定する必要が有りますが、レンズ本体を機械に固定する冶具とレンズを融点の低い金属(アロイ)で貼り付ける作業を行います。

そしてこの工程も再びアナログです。作業員の方が実際にやってみてくださいましたが、セミ材に刻印されたレンズマークを目視で確認して貼り付けていました。メガネ屋が店舗で行うのとまったく同じです。ロボットとかがやるのではないんですね・・。

その後は工場内にズラリと並んだCG(何の略かは聞き忘れました)と呼ばれる機械を使い切削作業を行います。荒削り、中削り、仕上げを一つの機械の中で一枚のレンズにつき約200秒で行うそうです。

ちなみに両面累進レンズは文字通り表面と裏面それぞれ削るため研磨作業が通常の2倍手間がかかります。その後CCPという機械の中で酸化アルミの付着した紙パッドで磨きをかければこの工程は終了です。

3)染色工程
文字通りレンズに色を付ける工程(レンズにカラー指定を行った場合染色を行います)


研磨の終わったレンズをアセトンで綺麗に拭き取り、レンズ素材によって異なる温度の染料で一定時間煮ることで染め上げます。

ただし染まり具合はその日の工場の気温や湿度などの環境、素材の状況によって異なってくるため機械による自動化の割合がもっとも低く、人間の技術や感覚が一番要求される工程です。

染色の際の温度は通常の屈折率1.6素材や1.67素材は90℃代の染料で行いますが1.7以上の高屈折素材は水の沸点である100度以上の温度で染める必要があるため、大きな圧力鍋のような装置の中で圧力をかけることで染料の沸点を100度以上にして染めています。最後に退色を防ぐために熱を加えて焼き付けることで終了です。

4)ハードコート
本来柔らかいプラスティックレンズに傷から守るハードコートをする工程


まず「拭き上げ」という作業を行いますこれは人間が手作業でレンズを一枚一枚吹き上げる工程でここでいかに高い精度でできるかがレンズの品質や信頼性を左右するそうです。

その後巨大な洗浄機に入れアルカリ液、そして半導体にも使われる純水による洗浄が何度も行われます。

以前はレンズの洗浄にフロンが使われていましたがオゾン層の破壊に繋がるとして全廃されたことに伴い現在の方式になっているそうです。

その後の工程は立入禁止の区画内で直接見ることは出来ませんでしたが、耐衝撃用のプライマーを付けたあと、特殊シリコン液に浸して加熱硬化させてハードコート膜を形成します。

5)AR(anti reflective coating反射防止コート)
ARコート(反射防止コート)をレンズに蒸着させる工程


方法はハードコートの終わったレンズを巨大な金属製の傘の上に80枚ほど並べて大きな釜の中に入れます。

そしてその中で粉状あるいはペレット状の蒸着原料を電子ビームで飛ばし、蒸着させることを数回繰り返し、最後に撥水コートを約70度の熱で焼き付けて完成です。

HOYAでもSFTコートやヴィーナスガードコートなど付加価値を付与したARコートを多く出していますが蒸着原料の種類や回数を変えることで付加価値を実現しているそうです。

その後はロットごとにコーティングの種類ごとに決められた荷重(SFTコートはは2キロVGコートは2.5キロ)を掛けたスクラッチ検査を行い、それを通過したもののみが市場へ流通することになります。

6)検査工程
機械、目視による検査、レンズマークの印字等を経てレンズは完成です。HOYAのレンズ品質保証体制はHIQSHoya International Quality Standard)と呼ばれJISやISOなどの国内・国際規格よりも厳しいとのことでした。その後オーダーに応じてカットやフレームへのマウンティングを行います。

メガネレンズの染色体験実習してみた!

工場内の見学の他にも染色の体験も行わせていただきました。

予め用意していただいた自分のレンズを染める実習です。まず、綺麗に染まるようにレンズを綺麗にする作業から始めます。

細く折りたたんだ拭きとり紙にアセトンを染み込ませ右手の人差指と親指ではさみ、その間にレンズを入れて回転させるように拭き取るのですがなかなか難しい。

付き添ってもらっている作業員の方の力を借りてなんとか終了しました。

何とかきれいに拭けました

そしていよいよ染色本番、自分はMGY(グレー)を希望していたので専用の染料に規定の時間漬け込みます。待つこと数分見事に染まったレンズを取り出します。

その後は目視でチェックし、更にブルーライトカットを謳うキャリアカラーの場合は分光計測器で規定の波長の光が規定量カットされていることを確認します。チェック段階でダメだった場合は赤、黄、青、色抜き液の三色の色に漬けて微調整を行うとのこと。

どの色に何秒つけるかの判断は作業員の長年の知識と経験で決めるそうです。当日の気温や湿度、レンズの素材、後からのせるARコートで色がどのように変化するかも予想して判断するまさに匠の仕事です。


ちなみに私は一度MGY(グレー)15%に染めた後更に青色の染料に1分間染めたオリジナルカラーに自分のレンズを染め上げました。


上段右側がキャリアグレー15%、左側がMBY15%
下の段がMGYに青色を加えたツチヤスペシャルカラー

HOYAメガネレンズ工場見学まとめ

HOYAのレンズのコダワリはレンズの洗浄を徹底的に行うことだそうです。

とにかく各工程で純水による洗浄を行っていたのが印象に残りました。全工程で1、2回しか洗浄しない中国や韓国のレンズメーカーと比べて、HOYAのレンズは新品の状態ではまったく見た目は変わりませんが精度や数年使ったあとでの耐久性に出てくるのだとか・・。

私は自動車やビール、化粧品の工場などの見学に行ったことがあるのですが、これらの工場がラインにほとんど人がおらず機械化がかなり進んでいた印象がありました。

それに対して今回のレンズ工場では各ラインで働いている人間が多いこと、そして各工程、特に染色に関しては人間の感覚が大きく物をいう匠の世界だったことに最も驚きました。

今回のHOYA工場見学でレンズは『人』が作っているという当たり前のことを改めて認識することができる貴重な経験になりました。