一介のVRファン兼1級眼鏡作製技能士が、横浜の下町の片隅からお送りする「ちょっとVRが便利に楽しくなるコラム」第7弾。今回のテーマは、Meta Quest(メタクエスト)などのVRゴーグルが、視力回復のツールとして注目されているという話題です。

私自身、VRの世界に魅了されている一人として、日々進化するVR技術が私たちの「目」にどのような影響を与え、そして未来の視力ケアにどう貢献していくのか、大きな関心を持っています。

「VRゴーグルで本当に視力が回復するの?」

そんな疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。今回は、最新のリサーチに基づき、VRゴーグルが視力に与える影響のメカニズムと、眼鏡技術者として皆様にぜひ知っていただきたいポイントを解説します。

現代社会の「目の酷使」とVRの可能性

眼鏡技術者として、日々多くの方の目の検査をさせていたいていますが、近年痛感するのはスマートフォンやPCの普及は、私たちの生活を便利にする一方で、目にかつてないほどの負担を強いているということです。

1日8時間以上PCやスマホを見ることが珍しくなくなった現在、現役世代の多くの方が「目の疲れ」や「スマホ近視(仮性近視)」に悩まされています。これは、近くのものを長時間見続けることで、目のピント調節を担う「毛様体筋」が凝り固まってしまうことが主な原因です。

ここでVRゴーグルが注目されるのは、その光学設計に秘密があります。

VRゴーグルは、以下の画像のように、目の前にディスプレイがあるにもかかわらず、レンズの働きで仮想空間の映像を「遠く(多くの製品で約2メートル先)」にピントが合うように見せてくれます。これにより、緊張していた毛様体筋がリラックスし、目のストレッチ効果が期待できるのです 。実際に、若年層を対象とした研究では、VRゲームを用いた毛様体筋のストレッチで、一時的な視力回復が見られたという報告もあります 。  

VRゴーグルは装用者は強力な凸レンズの焦点より近方にディスプレイを配置
することで2m先のディスプレイの正立虚像を見ています。

VRが拓く「目のトレーニング」の最前線

VRは単なる目のリラックス効果だけでなく、特定の視覚機能を改善する「医療分野」での応用も始まっています。

目のチームワークを鍛える~弱視・斜視治療への応用

VVRゴーグルは、左右の目にそれぞれ異なる映像を見せられる「両眼分離」という特性を活かし、弱視や斜視といった両眼視機能のトレーニングに応用され始めています。この技術は「ダイコプティックトレーニング」と呼ばれます。

弱視や斜視は、片方の目の視力が十分に発達しなかったり、両目の視線がそろわなかったりすることで、脳が左右の目からの情報をうまく一つにまとめられない状態です。ダイコプティックトレーニングでは、VRゴーグルを使い、あえて視力の良い方の目にはコントラストを下げた映像を、弱い方の目には鮮明な映像を見せます。これにより、脳は視力の弱い目からの情報を積極的に使おうと働きかけられ、両目で正しく物を見る力を鍛えていくのです。

このVRを用いたアプローチは、従来の弱視治療である「遮蔽法(アイパッチで見える方の目を隠す方法)」と考え方は似ていますが、お子様の負担を大きく減らせる可能性があります。

当店のお客様にも、専門医の指導の下、アイパッチで訓練を頑張っているお子様がいらっしゃいましたが、見える方の目を隠されるのは、お子様にとって大きなストレスです。嫌がって外してしまうケースも少なくありません。

その点、VRであれば、子どもたちは「治療」と意識することなく、ゲームで遊びながら自然に目のトレーニングができるため、治療への意欲向上が期待されています。

 アメリカでは、すでに小児(4~7歳)の弱視治療用VRアプリ「Luminopia One」がFDA(米国食品医薬品局)に承認され、臨床試験では62%の子どもに視力改善が見られたと報告されています。日本国内でも、大阪大学などがVRを用いた小児弱視の臨床研究を進めており、今後の展開が期待されます。

【重要】!お子様のVR利用と専門家への相談


VRゴーグルの利用は、視力回復やケアに新たな可能性をもたらす一方、特に視覚発達期にある小児への影響について十分な注意が必要です

  • VRゴーグルを治療目的で使用される際は、必ず眼科医に相談しましょう。 自己判断での使用は絶対におやめください。
  • 多くのVRゴーグルは、目の成長への影響を考慮し対象年齢を13歳以上としています。メーカーの推奨年齢を守りましょう。
  • VRで改善が期待できるのは、主に目の筋肉の緊張による「仮性近視」です。眼球の長さ(眼軸)が伸びてしまった「軸性近視(いわゆる本当の近視)」は、VRで元に戻ることはありません。
  • 「VRをすれば視力が回復する」という情報を鵜呑みにせず、まずは専門家にご相談ください。

目の健康は非常にデリケートです。VRを視力改善の目的で利用する際は、必ず眼科専門医に相談し、適切な診断と指導を受けることが不可欠です。

最後に

VRとメガネで、より豊かな視覚体験を

VR技術は、エンターテインメントだけでなく、私たちの目の健康をサポートする新たな可能性を秘めています。しかし、その恩恵を最大限に享受するためには、正しい知識と適切なケアが欠かせません。

メガネのツチヤでは、お客様一人ひとりの目の状態に合わせた最適なメガネのご提案はもちろんのこと、VRゴーグルを快適に楽しむための度付きレンズのご相談も承っております。VRファンの一人として、皆様のデジタルライフがより豊かで、目の健康が守られるよう、お手伝いさせていただきます。

目のことで気になることがあれば、いつでもお気軽にご相談ください。