XRkaigiへの参加を決めるまで

横浜のヨドバシカメラで体験したGear VRの衝撃が忘れられず、VRの世界に魅せられた私。Quest 2の発売と同時に初の本格的なVRゴーグルを購入しました。

メガネ常用者にとっての不便さを解消するため、度付きレンズキットを自作したところ、その快適さに感動。

以来、VRファンの眼鏡技術者として、この度付きレンズキットを販売するまでになりました。そんな私が、かねてから念願だった国内最大のXRイベント「XR Kaigi」についに参加してきました!

XRkaigiとは

XRなどバーチャル領域(※)の担い手に向けて「共有し、繋がり、高め合う」を目的に開催する国内随一の業界カンファレンスです。 開発者・クリエイター、経営層やビジネス担当者の方々、マーケティング担当者や学生まで、この領域で活躍しているプレイヤーと、関心を持つ企業の方々、全てを対象としたイベントとなっています。

主催はXR・メタバース・VTuber専門の国内最大級メディア『Mogura VR』を運営する株式会社Mogura。
2019年より開催し、今年で6回目を迎えます。

XRkaigi2024公式サイトより引用

実はXR Kaigiの存在は以前から知っていました。しかし、エンジニアやプログラマーではない、ただのVR好きのメガネ屋が行っても良いものだろうか…と、これまで参加をためらっていました。

そんな中、XR Kaigiのプレイベントとして開催された「XR Kaigi Hub in 横浜」が、なんと地元の横浜で、しかも店の定休日である水曜日に開催されることを知り、思い切って参加してみることにしました。

プレイベントでは、登壇者の講演はもちろん、イベント後の交流会で様々な立場でメタバースに関わる方々と交流することができ、その熱気にワクワクが止まらなくなりました。「これは行くしかない!」と確信し、すぐに本イベントのチケットを購入。今回は、店の定休日である12月12日(水)のセッションのみの参加となりましたが、その感想を以下に綴りたいと思います。

オープニングキーノート「XR時代の必勝法:数々のヒット作を生み出したクリエイターが明かす、価値ある体験づくりの革命的アプローチ」

会場は、東京都浜松町にある東京都立産業貿易センター内の東京ポートシティ。ここは、メガネ業界の春の展示会「WoF」で何度か訪れたことがある場所です。

主催であるMogura VR代表の久保田氏の挨拶に続き、オープニングキーノートには、『アイドルマスター』や『太鼓の達人』といった数々のヒット作を手がけた、元バンダイナムコエンターテインメントのトップクリエイター、コヤ所長こと小山順一朗氏が登壇されました。

ゲーム好きの私は、『アイドルマスター』や『太鼓の達人』の存在は知っていましたが、恥ずかしながらコヤ所長のお名前は存じ上げませんでした。会場に到着した頃には、ほぼ満席状態。VR関係者向けのイベントということで、エンジニアやプログラマーの方が多いのかと思っていましたが、メディア関係者や学生など、多様な参加者がいるのが印象的でした。

実際に講演を聴いてみると、コヤ所長の話し方は非常に巧みで、自作のイラストを交えたプレゼンテーション資料とともに、当時の裏話などを織り交ぜながら、いかにして消費者のニーズを汲み取り、新しい商品や市場を生み出すかについて語られました。

実は、当店で扱っているVRゴーグル用度付きレンズキットも、私がQuest 2を購入した際、あまりの見えなさに愕然とし、「VRゴーグルは裸眼では見えない→メガネを掛ければVRを楽しめるけれど面倒くさい・煩わしい→だったらメガネを掛けなくても良いツールを作ろう!」と、自分用に作ったことがきっかけでした。

コヤ所長は私より8歳年上で、比較的世代が近いこともあり、子供の頃に触れてきたカルチャーや当時のゲームセンターの雰囲気、プレイしてきたゲームなどがほぼ同じで、非常に共感しやすかったです。これも、講演に深く引き込まれた理由の一つだと思います。


1時間40分にも及ぶ講演でしたが、コヤ所長は聴衆を飽きさせることなく、あっという間に時間が過ぎました。このような話術の巧みさと、人を惹きつける魅力こそが、数々のプロジェクトを成功に導いた要因なのだろうと感じました。

XREAL企業発表セッション

続いては、ARグラスのリーディングカンパニーであるXREAL社の企業セッションです。私はVRに注力するばかりで、ARについてはまだ浅い知識しか持っていなかったため、情報収集のために参加しました。

前方には多くの記者が詰めかけており、その注目の高さが伺えます。今回のセッションの主なテーマは、現行主力機種であるXREAL Air 2の後継機、XREAL Oneの発表でした。「2の次は3じゃないのか…」という疑問はさておき、今回の新機種は自社開発の専用チップ「X1」を搭載し、描画遅延を徹底的に排除したとのことです。

メガネ店主として特に気になったのは、近視や乱視などの屈折異常への対策です。

VRの場合、数メートル先の仮想スクリーンに焦点が合っていれば、加齢によるピント調節力の低下(老眼)があっても、遠くも近くもはっきりと見ることができます。つまり、屈折矯正に必要なレンズは、基本的に単焦点で済むのです。

一方、ARは仮想空間のスクリーンを見るだけでなく、現実世界も肉眼で見るため、50歳を超えて老眼の影響が出ているユーザーは、内側に装着するインサートレンズ用のフレームに、遠くから近くまで複数の度数が一枚のレンズに入った累進多焦点レンズを使用せざるを得ません。

遠近両用や中近両用などの累進多焦点レンズは、多くの度数が含まれているため、度数やレンズ設計、フレームの選定、そしてフィッティングなどを最適に行わなければ、なかなか快適な見え心地にはなりません。

XREALさんの度付き対応は、公式通販がメインで、メールで度数を送って作成するという方法のようです。単焦点レンズであればまだしも、累進レンズではかなり難しいのではないかと感じました。

もちろん、ARグラスを仕事やゲームで仮想ディスプレイを見るために使い、肉眼で現実世界をそれほど見ないのであれば問題ないかもしれません。しかし、それならばVRゴーグルでも良いような気もします。ARグラスが真に普及していくためには、日常的に常用できるような高品質な度数決定、フィッティング、設計選定を行ったインサートレンズが全国の眼鏡店で制作できるようになることが不可欠だと感じました。

XR Future Pitch

スタートアップにおけるピッチとは、スタートアップ企業が投資家やベンチャーキャピタル(VC)に対して、自社の製品やサービスを短時間でプレゼンテーションすることです。資金調達を目的として行われ、シリコンバレーが発祥の言葉です。

AI による概要

スタートアップ界隈の「ピッチ」という言葉を私は知らなかったのですが、今回のピッチは、XR関連の起業家6名が自身の事業について一人あたり6分でプレゼンテーションを行い、それに対してコメンテーターが質問し、最後に会場の参加者の投票で一位を決めるというものでした。

参加者全員がXRへの熱い情熱を込めたプレゼンテーションを行う中、見事優勝したのは、中小規模の農業事業者向けのAR(拡張現実)農作業補助アプリ「Agri-AR」を発表した株式会社Rootさんでした。

農作業には、「ミリ単位の精度は求められないけれど、単純で面倒な作業」が多く存在し、それを解決するために開発されたのがこのAR農業アプリとのことです。

具体的な事例として挙げられたのは、畑に種を撒く際に、従来は二人で畑の両端に紐を張り、それに沿って種を撒く必要があったという作業です。

しかし、「Agri-AR」を使えば、VRゴーグルを被り、パススルーモードで畑に仮想の直線を引くだけで、人手や手間を大幅に削減して種を撒くことができると説明されました。

株式会社Rootの代表取締役である岸圭介氏は、質問者からの「どうしてこんな便利なアプリが今までなかったのですか?」という問いに対し、「XRに詳しい方はたくさんいるし、農業に詳しい方もたくさんいる。ただ、私のように農業とXRの両方の知識を持つ詳しい人がいなかったからでしょう」と答えていらっしゃいました。

中小規模の農業者の潜在的なニーズを捉え、テクノロジーの力で新しい市場を生み出す。まさに、オープニングキーノートでコヤ所長が語っていたことと繋がるように感じました。

XR Kaigi Award表彰式

XR Kaigi Awardは、XR Kaigiの出展社を対象に、XRの普及に貢献している取り組みを表彰するアワードです。

REALデバイス部門、ツール・基盤技術部門、エンタープライズ部門、コンシューマー部門、アクティビティ部門、そして協賛社のXREALが選出するXREAL Best Creativeの各賞が選ばれ、会場で表彰されました。

自分自身、VR関連の情報は積極的に収集しているつもりでしたが、XR技術は3Dスキャニング、デジタルフィギュア、AR地球儀から防災、教育まで、その活用範囲を広げており、まだまだ自分が知らないテクノロジーやコンテンツがたくさんあることを痛感しました。

ネットワーキングパーティー

1日目の最後に行われたのは、イベント参加者や出展者などが一堂に会するネットワーキングパーティーでした。学生から企業の経営者、研究者までが集まり、XRの将来や可能性について熱く語り合う立食形式のパーティーです。

私も、VRチャットで情報交換を行う若いエンジニアや、XRを活用したコンテンツに興味を持つ映像ディレクター、シンガポールから参加した世界的なXRイベント主催社の副社長の方々、そしてなんとオープニングキーノートで登壇されたコヤ所長とも直接お話させていただくことができました。

普段、周りにXR関連の話ができる人がいない私にとって、年齢や立場を超えてXRの可能性や未来について語り合えた時間は、本当に楽しいものでした。ただのVR好きの眼鏡技術者である私にも、皆さん気さくに話しかけてくださり、心から感謝しています。この場を借りて御礼申し上げます。

パーティー開始の乾杯の様子
ちなみに左端の外国人の方
全身ガンダムグッズを身に着けて会場でも目立っており
「どなた?」と思っていましたが
実はビートセイバーの開発者の方で
たまたま東京におり、知人に誘われて会場に来ていたら
急遽乾杯の音頭を頼まれたそう

最後に

初めて参加させていただいたXR Kaigi。1日目のオープニングから最後まで参加してみて、やはりVR、XR業界はまだまだ発展途上のワクワクする業界だと改めて感じました。

また、眼鏡業界のように歴史があり成熟した業界の展示会とは異なり、参加者や出展者の年齢層が若いのも印象的でした。

今回はセッションのみが行われた1日目だけの参加でしたが、正直なところ、2日目以降に開催されたエクスポにも参加し、最新のハードウェアやテクノロジーを体験してみたかったです。来年のXR Kaigiの日程はまだ発表されていないようですが、今から開催が楽しみです!