「遠近両用メガネは聞いたことあるし使っているけど中近両用レンズは知らない。」

ちゅうきんれんず?

メガネ屋をやっているとお客様からこうした声をよく耳にします。

あるアンケートによると「中近両用メガネを知っている」方はメガネをお求めになる方のわずか7%程度だそうです。

仕事にパソコンが不可欠となり、室内で過ごす時間が多い昨今。メガネのプロとして『こんなに便利なのに知られていないのはもったいない!と日々強く感じます。

今回は、そんな「隠れた実力者」である『中近両用メガネ』について、1級眼鏡作製技能士の私がその魅力と活用法を詳しくご紹介します。

そもそも中近両用メガネとは?

中近両用レンズは遠近両用レンズと同じく一枚のレンズに複数の度数が存在する累進多焦点レンズの一種です。

一般的な室内での実用域である4メ-トルから40センチ程度の距離を見るのに最適化されているレンズで、『室内用メガネ』とも言われています。

大きな特徴は、レンズの中心付近、最もよく使う部分の度数設定です。遠くがよく見える度数ではなく、パソコンのディスプレイなど、50センチから70センチの距離が最も見やすいように設計されています。

ざっくりとしたイメージとしては遠近両用レンズの『遠方:中間域:近方』の割合が6:2:2であるのに対し、中近レンズは2:4:4といった具合に中間距離と近方重視の設計になっているのです。

『手元用メガネ(老眼鏡)に近い本やスマホ、パソコンの見やすさ』『テレビを見たり、会話するのに十分な遠方の見え方』を両立しているのが中近両用メガネの大きな強みです。

遠近両用レンズの度数分布:半分以上が遠くの度数(青)で占められ、中間帯(緑)近方(赤)が狭いのがわかります。

中近レンズの度数分布:遠近レンズに比べ、遠くの度数(青)がすくないかわりに、パソコンの距離に当たる中間帯(緑)が大きいことがわかります

『中近両用メガネ』はこんなシーンで活躍します!

ビジネスシーン:長時間PC作業をする方、特にエンジニアやプログラマー、クリエイターの方にお勧め

テレワークなどのパソコン作業
会議などのオフィスワーク

現代の仕事において、PCの重要性はますます高まっています。勤務時間のほとんどをPCディスプレイと向き合って過ごし、1日に8時間以上画面を見ているという方も少なくありません。

一般的なPCディスプレイまでの距離は、デスクトップ型やノート型、個人の姿勢によっても異なりますが、おおむね50センチ~70センチ程度。これは読書(約40センチ)やスマートフォン(約30センチ)よりも離れた距離です。そのため、いわゆる手元用メガネ(老眼鏡)では、無意識のうちに顔をディスプレイに近づけてしまいがちです。

一方、遠くを見ることを重視した遠近両用メガネの場合、PC作業ではレンズの下方にある狭い中間領域を使わなければならず、顎を不自然に上げて画面を見る姿勢になり、首や肩の疲れに繋がることもあります。

しかし、中近両用メガネなら、手元用メガネとは異なり見える距離に奥行きがあり、かつ遠近両用メガネよりもPC作業距離や読書、スマートフォンといった中間~近方の範囲が格段に広く設計されています。これにより、下のイラストのように無理に顎を上げることなく、自然な姿勢で作業に集中できるのです。

遠近使用時より中近使用時の方が自然な姿勢でPC作業できていることがわかります。

また、車の運転を頻繁にはせず、遠くの見え方をそれほど重視しない方であれば、得意先回りや通勤といった外出を含めた常用メガネとしても十分活用できます

特にコロナ禍以降、リモートワークが普及し、室内でPCを使用する時間が増えた現代において、中近両用レンズはその真価を発揮しやすい環境になったと言えるでしょう。


プライベート:お家時間をもっと豊かに

食事などのくつろぎの時間

プライベートシーンでも室内の環境に最適化された中近両用レンズは大変有効です。

例えば、食卓で料理を目で楽しみながら、家族や友人との会話やテレビも自然に見ることができます。新聞のテレビ欄を見るときに老眼鏡をかけ、テレビを見るときには鼻眼鏡にする…といった煩わしさからも解放されます。

さらに、FPSや格闘ゲームなど、ディスプレイとの一定の距離を保ちつつ、広い範囲を長時間見るする必要があるゲームを楽しまれる方にもおすすめです。

ドライブや映画鑑賞など、遠くの景色をはっきり見ることが重要な場面には不向きですが、近所へのお買い物やウォーキング程度であれば、中近両用メガネを掛けたままでも問題ありません。

現代人の生活では地平線や100m以上遠くを見るシーンが極めて限られており、遠方の見づらさを感じづらいことも中近メガネをおすすめする理由の一つです。

ズバリ『中近両用メガネ』はこんな方にオススメ!

パソコンのお仕事でお疲れ気味の50代エンジニアAさん

「普段は遠近両用メガネを使っているけど、仕事は内勤で一日中8時間以上PC作業。手元やPC画面の見え方に不満があるんだ。夕方になると目が疲れて、帰宅してスマホを見るのも億劫で…」

Aさんのように、運転も考慮して遠方(4メートル以上)の見え方を重視した遠近両用レンズは、室内での長時間のPC作業では、その長所を十分に発揮できません。
中近両用レンズなら、室内ではあまり必要のない遠方の見え方をある程度抑え、PC作業など一般的な室内での作業距離に最適化されているため、メガネを掛け替える手間なく、テレワークや室内作業に集中できます。

普段メガネは掛けたくない60代Bさん

「普段はできるだけメガネを掛けたくないの。近くを見るときだけ手元用メガネを使いたいんだけど、老眼鏡だと手元以外はぼやけすぎて、掛けたままではテレビも見えないし、室内を移動するのも不安で…」

Bさんがお使いのような手元専用の老眼鏡(近用単焦点レンズ)は、確かに近くはよく見えますが、顔を上げると周囲がぼやけてしまい、掛けたまま歩くことは危険です。
中近両用メガネなら、手元やPC画面はもちろん、顔を上げればテレビを見たり、室内を見渡したりすることも可能です。「掛けたまま室内を動ける老眼鏡」として、快適にお使いいただけます

あえて言います!『中近両用メガネ』の欠点

ここまで中近両用メガネの利便性をお伝えしてきましたが、もちろん万能ではありません。最大の注意点は、遠く専用のメガネや遠近両用メガネに比べて、遠方の視界がぼやけるということです。

少し専門的なお話になりますが、例えばHOYAの中近両用レンズの場合、フィッティングポイント(=自然に遠くを見る際のレンズ上の瞳孔の位置)で、加入度数(老眼の度数)の約30%~40%のプラス度数がすでに入っています(この割合はメーカーやレンズ設計により異なります)。

そのため、遠く用のメガネで5メートル先の視力検査表が1.0見える方でも、中近両用メガネでは加入度数にもよりますが、同じ視線の位置での遠方視力は0.7~0.9程度に低下します。これは「性能が低い」のではなく、「あえてそのように設計している」のです。また、一般的に遠近両用よりも累進帯(度数が変化する部分)が長めに設計されているため、遠方を見るときの左右のクリアな範囲も、遠近両用レンズに比べると狭く感じることがあります。

まれに「中近両用メガネで遠くを遠近メガネと同じくらいに見えるようにしてほしい!」とご要望をいただくことがありますが、遠方が遠く用メガネと同じくらいに見えるメガネはもはや「中近両用メガネ」ではなく「遠く用メガネ」あるいは「遠近両用メガネ」です。

こうした特性を十分にご理解いただいた上で、私を含め、多くのお客様が中近両用レンズを愛用しており、現在の都市生活における常用メガネの有力な選択肢の一つとなっています。

快適な中近両用メガネを選ぶために知っておいてほしいこと

中近両用メガネを試したけれど「慣れない」「気持ち悪い」と感じるケースには、いくつかの共通点が見られます。

  • 遠方の見え方を求めすぎた度数設定: 中近両用メガネに遠くの見やすさを過度に求め、遠用部分に強すぎる度数を入れたり、不必要に加入度数(老眼度数)を高めたりすると、中間~近方とのバランスが崩れ、違和感の原因になります。
  • 不適切なフィッティングポイント: フィッティングポイント(レンズの光学中心と瞳孔の位置関係)が適切でない場合も、見え方に大きく影響します。
  • 元々の視力やメガネの使用状況: 遠視の方、夜間運転が多い方、これまで過矯正気味(強すぎる度数)の遠用メガネを常用していた方などは、遠方の見え方の変化に敏感で、「ぼやける!」「気持ち悪い!」と感じやすい傾向があります。こうした遠方のクリアさを重視する方には、遠近両用メガネをおすすめしています。

実は・・私、『中期両用メガネ』ばっかり使ってます!

メガネ店経営アラフィフ眼鏡作製技能士

このコラムでこれほど中近両用レンズをおすすめするのは、何を隠そう、筆者自身がそのメリットを強く実感している愛用者だからです。

以前はバイクに乗っていたこともあり、遠くの視界も重視し、遠近両用メガネをメインに使用していました。

しかし、バイクに乗らなくなり、遠くを注視する機会が減少。一方で、職業柄、パソコン作業やメガネの加工作業など、中間距離や近距離を見ることが非常に多いのですが、40代後半に差し掛かり、目の調節力が落ちてくると、遠近両用メガネではPC作業や手元の細かい作業が徐々に辛くなってきたのです。そこで中近両用メガネを常用してみることに。

今では遠近両用メガネはほとんど使っていません。

元々が近眼なので、中近両用メガネでの遠方の多少のぼやけは気になりません。それ以上に、パソコンのディスプレイやスマートフォンを見たり、メガネの加工作業をしたりする際のストレスが圧倒的に軽減されたのです。

確かに遠くの見え方は遠近両用メガネに劣りますが、意識して顎を引き、レンズの遠用部分を使えば遠くも確認できます。そもそも横浜市内で生活していると、数十メートル以上先を長時間見つめる機会は、そう多くありません。

何よりも、顎を上げずに自然な姿勢でPC作業やデスクワーク、読書やスマホ操作ができる快適さは、日々の疲れ方に大きな違いをもたらします。コンサートや映画鑑賞、推し活など、遠くをしっかり見たいときは遠近両用メガネを使いますが、それも月に1~2回程度。使用頻度で言えば、中近両用メガネが圧倒的に多くなっています。

当店ではVRゴーグル用レンズキットを販売している関係で、40代から50代のプログラマー、エンジニア、クリエイターのお客様が多くご来店されます。彼らの多くも、「中近レンズを試したら、もう手放せない」とおっしゃいます。長時間ディスプレイに向かう職業だからこそ、中近レンズの快適さを強く実感し、ご愛用いただく方が増えています。

『新しい生活様式』のスタンダード~中近両用メガネまとめ~

コロナ禍以降、私たちのライフスタイルは大きく変化しました。外出機会が減り、室内で過ごす時間や、パソコン・スマートフォン・タブレットを見る時間が増えた結果、当店を訪れるお客様からも、

  1. 目が疲れる、目の奥が痛い
  2. 頭痛、肩こりがする
  3. 近業時にピントが合いにくい
  4. 細かい作業を長時間続けられない
  5. 物が二重に見えることがある。
  6. 夕方になるとものが見づらくなる

といったお悩みを、30代後半から50代の比較的若い年齢層の方々から伺う機会が増えています。こうした加齢に伴う目の機能低下は「アイフレイル」とも呼ばれ、社会的な問題にもなっています。

そのような方々に対し、当店では、PC作業距離である50センチ~70センチを自然な視線の位置で見ることができ、かつ遠近両用レンズよりも度数変化が緩やかで、周辺部の歪みが比較的マイルドな設計特性を持つ中近両用メガネを積極的にご提案しています。

実際に中近両用レンズの見え方をご体験いただくと、特に車の運転をされない方や近視系の方など、遠方視力をそれほど重視されないお客様からは、「遠近両用はなんだかクラクラして慣れなかったけど、こちらの方が断然楽だね」といったお言葉をいただき、遠近両用ではなく中近両用をメインのメガネとしてお選びになる方が増えています。

実は中近両用レンズ自体は30年以上前から存在していました。しかし当時は、車を運転する方が多く、仕事で今ほど長時間パソコンを使うこともなく、スマートフォンもありませんでした。そのため、「こんなに遠くがぼやけるメガネは常用できない」と感じる方がほとんどで、私もその一人でした。

しかし、都市部を中心に車を運転する機会が減少し、仕事に占めるパソコンの使用時間が飛躍的に延び(1日に8時間以上も珍しくありません)、スマートフォンの普及など、近年のライフスタイルの変化により、中近両用メガネがそのメリットを最大限に発揮しやすい環境へと大きく変わったのです。

実際、以前NHK総合「あしたが変わるトリセツショー」のメガネ特集でも取り上げられていましたが、現代人は一日の多くを1メートル以内の近距離を見て過ごしており、遠くを見る時間はごくわずかだそうです。

まさに中近両用メガネは、現代の、そしてこれからの「新しい生活様式」に最もフィットしたメガネの一つと言えるでしょう。ぜひ一度、その快適さをお試しください。

【1級眼鏡作製技能士のひとりごと】 お客様一人ひとりの「見たい」に寄り添うために

メガネを販売していて日々強く感じるのは、「お客様が見る距離、見たいものは、一人ひとり全く違う」ということです。

メガネは魔法の道具ではありません。特に目の調節力が低下してくる40代以降にとって、全ての距離を若い頃のように完璧に見ることができる万能なメガネは存在しないのです。

「あえてお伝えします!『中近両用メガネ』の注意点」でも触れましたが、中近両用メガネにも、レンズの特性上、遠方がスッキリしない、遠くの左右の視界がやや狭くなるといった側面があります。

限られた調節力の中で最良のメガネをお作りするためには、お客様一人ひとりのライフスタイル、具体的な「見たいもの」や「作業環境」を、度数やレンズ設計に丁寧に反映させる必要があります。もしよろしければ、テレワークで実際にご覧になっている資料、お使いのノートパソコンやタブレットなどがございましたら、ご来店の際にお持ちください。より精密な検査が可能になり、最適なメガネ作りの助けとなります。

また、『中近両用レンズ』と一口に言っても、レンズメーカーによってコンセプトや定義が異なり、累進帯の長さやフィッティングポイントでの度数なども様々です。そのため、遠近両用メガネ以上に、トライアルレンズで実際にその見え方を体験していただくことが非常に重要になります。

近年、ウェブサイト上で、以前作製したメガネの度数や眼科の処方箋データのみを基に、トライアルなしで遠近両用メガネや中近両用メガネを販売するケースも見受けられます。しかし、1級眼鏡作製技能士の立場から申し上げますと、それだけでお客様にとって本当に最適なメガネを作ることは、極めて難しいと言わざるを得ません。

ぜひ、時間をかけて丁寧にコンサルティングと検査を行ってくれる、信頼できるメガネ店、経験豊富な眼鏡技術者(1級眼鏡作製技能士)が在籍するお店で、あなたにぴったりの一枚をお作りになることを強くおすすめいたします。


当店は各種中近レンズのトライアルがそろっておりますので実際に見え方を体験できます、お気軽にご相談ください。

お気軽にお問い合わせください。045-731-2802営業時間 9:30-19:00 [ 水曜日定休 ]

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