値段が高い遠近レンズと安い遠近レンズの違いは何?
現在遠近両用レンズなどの累進多焦点レンズ(=一枚のレンズに複数の度数が入っている)はレンズメーカー各社から発売されています。
そして、同じ遠近両用レンズでもそのグレードで価格は大きく異なります。その価格の違いをもたらす重要な要素であるレンズ設計についてまとめました。
累進レンズ設計による違い
遠近両用や中近両用など老眼対策に用いられる累進多焦点レンズが誕生してから数十年経ちます。
初期の遠近両用メガネはレンズ工作技術の稚拙さや光学設計ノウハウの無さなどもあり、ユレやユガミがひどいものでした。
今でもお年を召した方の一部が抱く「遠近両用メガネは足元が怖くて使えたものではない。」というイメージはこの時代の遠近両用メガネの装用経験から作られたと思われます。
そうしたイメージを払拭するため、各レンズメーカーは「よりユレ・ユガミが少なく」「遠方・中間・近方が無理なく見える」レンズを目指して熾烈な開発競争を繰り返します。累進多焦点レンズの歴史はまさに設計改善の歴史でした。
そうして生まれた設計は大きく分けて以下の4つになります。
- 両面複合累進設計
- 内面累進設計
- 両面設計(外面累進内面補正)
- 外面設計
上に行くほどハイグレードになります。
グレードが高いほど、度数などの条件が同じ場合は
『ユレやユガミなどの違和感が少なく』
『水平方向の視野が広い』
傾向があります。
また一般的にハイグレードなレンズほど制作時に工数が多く作るのに手間とコストがかかります。
累進多焦点レンズの価格の違いは原則レンズ設計の違いによるところが大きいとお考えください。
注意すべき点は一般的に「両面設計」といわれるものよりも「内面累進」の方がグレードが上だということです、基本的に多くのレンズメーカーのハイエンドレンズは内面累進となります。
注)設計の名称はメーカーにより異なります。また同グレード設計内でも開発時期の新旧などで性能は異なります。
各設計の特徴
外面累進(グレード4)
一枚のレンズで複数の度数を実現する「累進面」が外にある設計で2000年初頭までほぼすべての累進レンズがこの設計でした。
あらかじめ累進面をつけた半製品(セミ材)を大量に在庫しておき、店舗からのオーダーが入ってから球面、乱視度数をレンズの裏面に研磨して付与する方法です。
両面設計(グレード3)
外面累進の改良型です。
違う点は外面累進が半製品から作る制約上、基準度数から処方度数が外れた場合などに発生する収差を内面にフリーフォーム技術で研磨することで補正したもの(外面累進内面補正)です。
内面累進(グレード2)
「累進面」が内にある設計。
加工機の進歩により可能になったドリルの様なカッターで自由にレンズ基材を切削するフリーフォーム技術で累進面を含め、レンズの内側を切削することで度数をつけていく方法です。
設計や加工の自由度が格段に上がり、より柔軟で効果的な累進レンズ作成が可能になりました。
両面複合累進(グレード1)
HOYAが2003年採用した累進面を目に遠い凸面側の外面と目に近い凹面側の内面両方でフリーフォームで組み合わせて形成する設計。
内面累進のメリットである揺れ歪みの少なさと外面累進のメリットである必要な下方回旋量の少なさを兼備しているといわれています。
当店で販売する累進レンズは原則「内面累進設計以上」のグレードを販売しています
そしてインディビジュアルレンズの時代へ
レンズ設計の進化の歴史はレンズ加工機の進化の歴史でもあります。
レンズ加工機の進歩がもたらしたフリーフォーム加工が累進レンズの設計に革命を起こしました。
近年ではベースとなる設計だけで見やすさを向上させることはハイエンドレンズの領域では限界を迎えつつあります。
そこで、さらなる見やすさの追求のためにお客様一人一人の度数に加えて、前傾角やフレーム反り角、角膜頂点間距離などお客様の顔と装用状態ごとに異なる諸元も考慮してレンズ設計を最適化していくインディビジュアルレンズにレンズメーカー各社は力を入れてきています。
参考:特集ブログ フルオーダーメイドメガネ作成システム HOYA LLI
まとめ「レンズ設計以上に大事なこと」
これまで累進レンズの設計について書かせていただきました。
近年のレンズの設計の向上は目覚ましいもので黎明期の累進レンズに比べると揺れや歪み、視野の広さなどは別物といえるほど向上しています。
ただしメガネはレンズの設計グレードだけで決まるわけではありません。あくまで同一人物に同じレンズ度数、同じフレームなど全く同一条件でメガネが作成されればハイグレード設計のほうがよく見えるということです。
どんな高級食材で料理を作っても、長年修行をつんだベテラン料理人と修行をはじめたばかりの新人ではまったく料理の出来が違うようにどんなにすぐれた設計のレンズを使っても、コンサルティング、度数決定、フレーム選択・フィッティングなど他の要素が正しく行われなければ意味がありません。
- 眼鏡作製技能士など知識と経験を持つ検査員がお客様と時間をかけてコンサルティングを行う。
- 眼鏡作成のための視力検査を行い、完全矯正度数や調節力を求め、両眼視の状態を確認する。
- コンサルティングからくみ取ったライフスタイルやニーズをもとに、正しい知識に基づいて適切なレンズ処方や設計を選択する。
- お選びいただいたフレームに適切なフィッティングを行い、その時の装用状態に基づきレンズレイアウトを決定する。
メガネを一本作成するためにはおおまかにいっても以上の工程が必要です。
ちなみに当店では特に遠近両用などの累進多焦点レンズをお作りする場合、お客様ひとりに最低一時間以上のお時間をいただいています。
こんなに時間をかけて検査したの初めてとよくいわれるのですが、やるべきことをやるだけで本来はこのくらいかかってしまうのです。
そしてレンズ設計はいいメガネを作る工程の構成要素の1つに過ぎないこともご理解ください。
私もメガネ屋としてレンズ設計は大事だと考えますし、その優劣や蘊蓄にも大変興味があります。ただ快適な「視生活」を送れるメガネを作るには設計の優劣だけではないことをご理解いただけると幸いです。
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